迷える仔羊はパンがお好き?
  〜聖☆おにいさん ドリー夢小説

     14



野菜のピリ辛みそ炒めと キュウリとワカメの甘酢和え、
軟らかく煮た千切りタマネギと春雨の中華スープという、
何ともご飯の進むほこほこしたお昼を頂いてから、
やっとの何とか焼き上がった(笑)さんのパンを、
師匠二人へお披露目することと相成って。

 《 え? 二人って、私もなんですか?》
 《 そりゃそうでしょうvv》

ちゃんが慕ってる対象に間違いないんだしと、
目配せつきの伝心でイエスが後押ししておれば。
そんなやり取り、当然聞こえてはいないさんが、
調理台の上で十分冷ました、
食パン風の第一作を卓袱台まで運んで来た。
生地をくるんとまとめて焼き型へ入れる前、
ココアを振るって一手間していた答えは、
よく乾かした包丁でスルリと薄切りにスライスされた、
その切り口にお目見えし。

 「あ…。」
 「わぁvv」

ペンで描いたラインのような褐色の渦巻きが、
くりんと真ん中に現れる可愛らしさよ。
包丁を入れた折、
それはふわんとした手ごたえが見ていて判るほどだったし、
匂いも いかにも焼き立てパンですという
香ばしさしか立ってはなくて。
発酵させすぎたかもという悲惨な出来とは
随分と異なる様子じゃあある。

 「えっと…。////////」

それでも、一応のお毒味ということか、
端っこの一切れを手にしたさん、
パクリとそのまま齧りついて見せ。
どんな奇天烈な風味が襲うかとの覚悟もあったか、
ぎゅむと堅く目元を食いしばっていたけれど。

 「……あ。/////////」

ほわり、口許や頬がほころんだは、
上出来で美味しいとの証しだろう。
自分が焼いた事実さえ吹っ飛ぶ出来だったか、

 「どう?」

恐る恐る訊いたイエスだったのへ、
何度も何度もうなずき、
お顔の脇へ上げた手で、OKですとの合図を指で作って見せてから、

 「大丈夫、凄っごく柔らかくて いい出来です。」

どうぞどうぞと薦める仕草までされては、
二人もご相伴しない訳にもいかない。
そも、いかにも美味しそうな出来じゃああったしということで、
ではとワクワクしたお顔で、まずはイエスがぱくりと一口し、
それを見つつ、ブッダも、こちらはやや遠慮気味に角っこを齧ったが、

 「…っ!」
 「…っvv」

 うわ、何この柔らかさ。
 うんうん。それに軽くて口どけがケーキみたい。

こんなところに何ですが、
熟成と腐敗の境目というのは本当に絶妙ながら、
でもでも極めると格別なんだそうで。
例えば、肉食といやの本場、欧州では、
昔からジビエ肉(狩猟などで得た野生種の肉)は少し寝かせて食べるそうで。
ぎりぎり腐敗寸前というところ、
極限の寸止めが叶った熟成ものほど美味いものはないらしく、
最近になって 少しずつ流行してもおりますよね。
ただし、その見極めが本当に難しいらしいのも まま頷けようこと。

 《 頑張ったねぇ、イースト菌くん。》
 《 それもあるけど。》

それは幸せそうに、
自分のパンをむぐむぐと頬張ばっておいでの
さんの笑顔の何と眩しいことか。

 《 ああ、そうだね。》

彼女の一念が 全く関わらなんだと誰が言えようかと、
イエスよりは沈着冷静、物事を理性的に把握するブッダでさえ、
そうと思えてしまうのも無理からぬこと。

 「上手に焼けましたね。」
 「はいっ!」

イエスからのお褒めの一言へ、そりゃあ元気よく声を返したものの、

 でもでも、これは私にも想定外なところが多かったので、
 あのその えとその、本領発揮とは言えませんが、と。

そこは舞い上がり切らずに、謙虚な言いようも忘れない。
ややもすると大胆な行動を見せはするけれど、
それでも思慮に欠けるとか、蓮っ葉なというところはないという、
天然ながら お行儀はようよう仕込まれておいでな さんは、
今回の成功がいかに微妙かも分かっておいでで。
これをもって有頂天になる恐れは無さそうながら、
前向きなところは買ってもいいよねと、
ほくほくと笑っておいでのメシア様なのへ、
ブッダ様にも異存はなさそう。

  いやまあ、うっかりしてたのは事実なんですが。(笑)

頑張ったら何でもかんでも片っ端から叶うほど、
現実というのは決して甘くはないけれど。
失敗してもへこたれない頑張りや、
諦めないで何度でもやって見せようという頑迷さもまた、
間違いなく“強さ”ではあって。

  そんなの単なるしゃにむに過ぎないと、
  頭から馬鹿にしたもんじゃあない。

効率が悪くとも、あるいは愚かでも、
そういう熱は時として、いろんな歯車へ余波を与えるし、
ひょんな弾みで たまに功を奏すこともあり。

 “それはもはや“奇跡”ではないと思うんだけど。”

例えば 関わった人が心を動かされたとか、
馬鹿なことをやってるなぁという形ではあれ、
注目を集めたことで、1つのムーブメントになったとか。
そうともなれば、
人ならぬ誰かが魔法みたいな特別な力を施したものではなくて、
その人の頑張りが何かを動かしたということになるのであり。
少なくとも、業界が用意した“今年の流行はこれだ!”よりは、
人々の心の琴線に響くだろうし、
感動とか共鳴という次元で、
影響力も浸透力も格が上だということでもあるのかも。

 「はあ、美味しかったですvv」

絶品なお昼ご飯を御馳走様でしたと、
両手を合わせるさんなのへ、
大人二人も、

 「こちらこそ。」
 「うん。美味しいパンでした、ありがとねvv」

御馳走様と手を合わせる。
食器を下げるブッダを手伝うさんだったが、
とはいえ流しはさほど広くはないので、
並んで一緒に洗うというのは無理な話。
にっこり微笑った如来様から“此処は任せて”と言われ、
そうですか、それではすいませんと恐縮しつつ、
おどおどと六畳間へ戻れば、

 「さっきのパン、面白い工夫がしてあったね。」

イエスが にこにことそう話しかけて来たものだから、
ちょっぴり含羞みつつ、こくりと頷くと、

 「渦巻き模様とか、あと、
  マーブル模様とかが入ってるパンって、
  私も初めて見たときは、それはビックリしたんですよね。」

中学生のころに、今回頼ろうとした親戚のおばさんから、
そういう遊び心のある“アレンジパン”を食べさせてもらって、
うあ、こんなのがあるんだって驚いて。

 「大手の会社の菓子パンしか知らなかったから、
  何て言うんでしょ、カルチャーショックみたいな?」

そもそも、人が手で捏ねて作れるんだってのも、
ぼんやりとしか知らなかったくらいだったんで。

 「他でもない親戚にそれが出来る人がいたなんてって、
  そりゃあ驚いて驚いて…。////////」

小さなこぶしをぐうにして、
感動よ再びとばかり“じ〜ん”と感に入ってるお嬢さんへ、

 《 それはあれかな、
   ホームベーカリーがないと自宅では作れないって子供が
   増えつつあるってことかな。》

 《 う〜ん、それともちょっと違うような気がするけどね。》

今時のお子さんたちどころか、
ずんと古代に石窯でパンを焼いた人たちと
同世代かもしれぬこちらの二人には
果てしなく順番が逆なことだけに。
ブッダへちょっと
確認を取ってみたかったイエスだったようであり。
そんな二人だとは気づきもせぬまま、
さんの述懐は続いて。

 「それから興味が出て来て、
  暇をみては自分でも挑戦するよになったんですよね。」

洗い物を片付けたブッダが、
冷たい麦茶を盆に戻って来て卓袱台につき、
各々へと出しつつ彼女のお話へ耳を傾ける。
梅雨もそろそろ終盤で、
日によってはまだ涼しい朝晩ではあるが、
今日みたいにいいお日和だと、
冷たい飲み物がありがたい。
甘い芳香がしてそれも夏っぽい琥珀色のお茶で喉を潤し、
ほうと安堵したような吐息をついたイエスが、

 「中学生のころからっていうと、
  キミこそ、ほんの4、5年で
  ああまで焼けるようになってたってことじゃない。」

学校だってあったろうから、
1日中修行するより時間制限だってあったろうにと、
ますますと感心して見せれば、

 「でも その分、
  趣味の域を出てない作り方しかしてなくって。」

謙遜というより、
歯痒いと言いたそうに肩をすぼめたであり、

 「さあ焼くぞと構えても、時間の制約とかあるものだから、
  せいぜい1種をオーブン1回分しか焼けなくて、
  そんなじゃあ勘が身につく訳もなくて。」

ああ、趣味の域ってそういうことかと、
結構 手慣れているのに、何を指してそう思うのか、
ブッダやイエスは意外に感じたくらい。
これでも不満ならしい、
彼女のジレンマがちらりと覗いたということか。

 「そんなせいか、あんまり出来もよくなくて。
  ウチは家族全員がごはん党だったんで、
  成功しようが失敗しようが、自分で食べるしかなくて。」

 《 ごはん党? 日本てそんな政党か宗派があるの?》
 《 じゃあなくて。》

甘党とか辛党とか言うでしょうと
意外なレベルの単語が判らないらしいイエスへの解説を
ブッダが伝心にてしておれば、

 「失敗作はしょうがないですけど、
  成功したときは何か残念だったなぁ。」

作った本人もビックリするような、
甘みも香ばしさも、柔らかさも、丁度いい案配で美味しく出来ても。
どうせバサバサで美味しくないんでしょって
決めつけられてるみたいで何か悔しくて、と。
もしょりと語る口調は、何だか寂しそうでもあって。
一途な人だと判って来たからこそ、尚のこと、
聞いてるこちらも、それは気の毒だったねぇと切なくもなる。
その場に居合わせられたらよかったのにと、
無理な相談だと判っていながらも感じ入ってしまう最聖のお二人であり。

 “ああでも、それって私、キミへもいつも思ってた。”

あの磔刑に関しては、
直接官吏へ彼を売ったというユダ一人じゃあない、
兵士らが彼を捕縛しにと詰め掛けたおりには、
弟子の全員がそれぞれに逃げ出したという
それは切ない目にも遭ったイエスだと聞いて。
人の弱さをほろ苦く感じつつも、
せめて自分も知っていて、
見守ってあげられてたらと時に思うブッダであり。
今 思っても間に合う話ではないことは勿論、
それではイエスの立場的に意味がなくなってしまうとかどうとか、
理屈では全てすっぱりと判っていても、
それでも気持ちが収まらぬ。
悟りを開いた身でも、こればっかりはしょうがないのかなぁと、
さんへの小さなジレンマの陰で、
ふと思い出してしまった、
お友達へのジレンマをブッダが咬みしめておれば、

 「あ、でも。」

しんみりしていたが、
何を思い出したか、
打って変わって ふふvvと嬉しそうに微笑って見せて。

 「作業場の干し場なんかでぱくついてたら、
  通りすがりの知らないお兄さんが手を伸ばして来て、
  “旨そうだな”って
  勝手に千切って食べちゃったことがあって。」

 「えっ?」
 「……っ☆」

いくら気さくなご近所付き合いがあったとしても、
それはちょっと乱暴なんじゃあないかしら。
それに、は確か
“知らないお兄さん”と言わなかったか?

 「通りすがりって……。」
 「それって怖くなかったの?」

ブッダもイエスも、
存命していた土地や時代は、救いがないにも程がある状態で。
今でこそ、弟子となったり入門したりという形で、
礼を知り聖人となったる人たちに囲まれ、
それは穏やかに天界に暮らしている身ではあるが、
当然、結構 乱暴な人とも接して来た覚えも多々あって。
こんな平和な日本という土地で そんな無体をされたなら、
まだ幼かった少女には相当怖かったのではなかろうかと、
そこは即座に案じられもしたけれど。
そんな二人が思う次元ほどには、乱暴でもなかったものか、

 「何て言うのか、
  つっけんどんな人だったのにどうしてか怖くなくて。」

型に合わせて多めに焼いたので、
食べ残した数切れがまだ
卓袱台の上、皿へ盛ってあったのを見下ろしておれば、
それがさっと一枚消えた。

 「そうそう、こんな風に…え?」

イエスとブッダはお向かいにいて、
横合いから手を伸ばすのは不自然な位置。
現に、が あれれとお顔を上げれば、
二人とも唖然とした表情をこちらへ向けているばかりであり。
ただ、その視線はちょっとばかり横へずれてもいて。

 “横? こっち?”

何なに、私の隣に誰かいるってこと?
ドアが開く気配もなかったし、
そもそも、だったら彼らが立ってゆくはずだろうしと、
そんなこんなを ぼんやりと思いつつ。
さして抵抗もないままに、そちらへ自分も視線を向ければ、

 「相変わらず器用だよな、お前。」

つくだに娘のはずが、パンも美味く焼けんだからなと、
立て膝という行儀の悪さで畳の上へ座り込み、
お仲間よろしく、いつの間にか卓袱台を囲んでいたその彼は、

 「ルシ…」

 「バンドベーシストのるうくんっ!」

目許をすっかり隠すほど延ばした前髪に、
ビジュアルバンドのボーカルみたいな、
スリムなレザーパンツにベストと、
羽根っぽいファーのマフという、
半裸に近いいでたちの、

 「バンドべーしすと?」
 「ル、ルシファーさんじゃあ ないの? この人。」

それはそれは似ておいでだが、
イエスとブッダが見知っている存在じゃあないものか。
さんが“わあvv”と嬉しそうに
抱き着いたくらいだから、


  や、やっぱり別のお人なんだろか? う〜ん?






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 *久し振りにも程がある更新でございます。(ううう)
  パンの出来が気になってた方、何とか大丈夫だったようですよ。
  そして、ゲストには、とうとうあのお人の登場です。
  もう一個の連載のほうへも
  確か出したことなかったんじゃなかったか?
  上手く扱えるのか全然自信はありませんが、
  ががが・頑張りますね。

  そして、気がつきゃもうすぐ1周年です。
  何て長い数日なのか…。
  書き始めたのと同じ季節に戻って来ましたが、
  まだまだかかりそうな騒動で、
  どうか長い目で見守ってやって下さいませね?


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv


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